「グリーン電力証書」とは何か?

 NPO法人・環境エネルギー政策研究所所長であり、エナジーグリーン株式会社の代表取締役でもある飯田哲也氏は、北欧(特にデンマーク)のエネルギー政策を参考に、2000年、東京電力ソニーとともに、三者共同プロジェクトとして「グリーン電力証書」の仕組みを立ち上げた。

 エナジーグリーン株式会社のホームページ(http://www.energygreen.co.jp/index.php)を見ると、同社では、グリーン電力(太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力などによる電力)に関する認定・認証手続きをグリーンエネルギー認証センター(財団法人日本エネルギー経済研究所)にて行い、各発電所からのグリーン電力の環境付加価値を、グリーン電力証書として交付している。それを顧客が購入すると、グリーン電力の供給が受けられ、そのグリーン電力証書の代金は、必要な手数料を差し引いた上で、発電事業者に対して支払われ、発電所の維持・管理や新たな発電所の導入に貢献する、としている。

 グリーン電力のための発電所自然エネルギー発電所)の中には、市民出資(市民による出資)によって建設された発電所南信州おひさま発電所/長野県飯田市石狩市民風車/北海道石狩市)などがあるが、そうした事業体にとってのグリーン電力証書のメリットとは、これまで自らの利用に留まっていた環境付加価値を新たに販売することで、発電所の維持や拡張に必要な収益を増やせることと、第三者機関(グリーンエネルギー認証センター)が、発電設備およびグリーン電力相当量を認証することで、客観的な評価を得られる点を挙げている。

 大変結構な取り組みのように見えるが、気になる点がいくつかある。
 まず、グリーン電力であることを認定・認証する第三者機関であるというグリーンエネルギー認証センターだが、これは財団法人日本エネルギー経済研究所の内部機関らしい。この財団のホームページ(http://eneken.ieej.or.jp/)を見ると、この研究所は1966年に創設されたものである。ちょうど日本が電力事業を原子力中心に推進しようとする矢先の創設ということになる。その当時にグリーン電力を推進するために立ち上げた機関であるとは考えにくい。
 役員名簿を見ると、まず常任理事長の豊田正和氏は経産省のOB。24人いる理事は、学者・研究者、大手電気・ガス・石油会社の幹部連中。その中には、東電の藤原万喜夫副社長や久米雄二電気事業連合会専務理事の名前も含まれている。市民団体や民間を代表する人間は一人もいない。ホームページに掲載されている論文などに目を通しても、日本の原子力事業推進に一役買ってきた団体であることは疑いようがない。何か、官僚と財界と学界が結託して進めてきた日本の原子力事業の縮図でも見せられているような違和感がある。
 ちなみに、エナジーグリーンの代表取締役である飯田哲也氏も、もとは(財)電力中央研究所原子力研究開発に従事していた人物である。

 これは何を意味するのか? 今まで原子力を推進してきた面々だが、2000年頃からはグリーン電力開発にすっかり宗旨替えした、ということか? それとも、今まで第一線で原子力を推進してきた専門家たちが、その専門的見識を活かして、今度はグリーンエネルギーの正当性の評価・認定・認証および普及の事業をやっていこう、というのだろうか? 彼らは原子力に関しては先発でも、グリーンエネルギーに関しては後発ではないのか?

 もうひとつ気になる点は、「グリーン電力証書」を交付するときに召し上げられる(?)手数料とやらが、どこに持って行かれて、何に使われるのか、ということだ。それが仮に今後のグリーンエネルギー開発に使われるとしても、中間採取の匂いがして、あまり気分のいい感じはしない。何か、体のいい資格商売の構図でも見ているような印象がある。

 実際、このグリーン電力証書のデメリットとして、すでにいくつかの点が挙げられている。
まず、懸念されているのは、証書が市場で流通する際に流通コストが上乗せされ、その分だけ再生可能エネルギーに対する助成効果が薄れてしまう、という点である。
 さらに、グリーン電力証書は多くの場合、再生可能エネルギーの導入量を電力会社に義務づけるクォータ(quota)制(日本ではRPS法=電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)と共に用いられるが、その場合、固定価格買い取り制度(フィードインタリフ制度)に匹敵する効果は期待できない、という点である。こうした制度と抱き合わせでなく、証書単体で利用される場合は、なおのこと価格の変動に左右されやすいだろう。したがって、この証書が一種の株券として証券取引所で取引される場合、相場が変動することによる、発電事業者にとってのリスクが高くなる。また、今後投資対象としての価値が上がってくれば、マネーゲームの対象とされるリスクもあるだろう。
 また、グリーン証書を購入することでグリーンエネルギー事業に貢献しているという、企業のイメージアップにつながる点がメリットとして挙げられているが、その企業自体が自然エネルギー発電所を所有しているわけではなく、もしその企業のもともとの業態が環境負荷の高いものだった場合、このグリーン証書が一種の免罪符の役割を果たしてしまう危険性がある、という点も無視できない。

 もちろん、このグリーン電力証書が万能の制度であるはずがない。今まで原子力中心でやってきてしまった日本の電気事業が、再生可能エネルギーの本格的開発へと大きく舵取りする過渡期には、実験的な試みとしてのひとつの選択肢ではあるかもしれない。
 しかし、重要なことは、このグリーン電力証書が制度としてうまく機能するかどうか、ということではない。デンマークの事例が成功したのは、原子力推進に傾きかける政府を、市民側が、反対するのでなく代案を示すという形で方向転換させた、という大きな潮流であり、具体的な数値を国家的目標として掲げ、国民合意のもとに、その数値目標を達成するためのさまざまな方策が検討され、最良のものを実施し、常に再検討を怠らず、全体を修正しながら前進し、ある意味目標以上の成果を上げてきた、という点である。さもなくば、原子力をいっさい使わずに、24年間でエネルギー自給率1.5パーセントから100パーセントにまで持って行くという快挙を成し遂げられるはずがない。
 そこには常に、市民主導のポリシーによる、国を挙げての本格的な行政改革があったということだ。一研究者あるいは企業家が、大手企業や学者や官公庁と組んで、新しい証券市場取引の実験をしているのとは、根本的に異なる。