遅まきながらの「体制」始動か?

 私は、「ブラッドシフト」作戦の提言に始まり、今最も緊急に大量の血を注ぎ込む必要があるのは福島第一原発であるとの認識につなぎ、私たち在野の人間にとって重要なことは、放射能の数値ばかりを追いかける(モニタリングする)のでなく、事態の収拾に向けてどのような体制がとられているかをしっかりモニタリングすることだと続けた。

 去る4月1日、田中俊一・元日本原子力学会長をはじめ、松浦祥次郎・元原子力安全委員長、石野栞(しおり)・東京大名誉教授ら16人の専門家たちが、「状況はかなり深刻で、広範な放射能汚染の可能性を排除できない。国内の知識・経験を総動員する必要がある」として、原子力災害対策特別措置法に基づいて、国と自治体、産業界、研究機関が一体となって緊急事態に対処することを求める提言を発表した。

 ようやく「真打登場」といったところだが、それは同時に、今まで専門家の輸血が足りていなかったことをも意味するのだろうか。震災が発生して20日経った今頃とは、あまりにも遅すぎる感じがする。この建言の内容を読むと、事態がいかに深刻かつ予断を許さない状況であるかを専門家の立場から概観した後、事態を収拾するのに必要な具体的な体制やその体制の運営の仕方、取り組むべき課題など、かなり具体的かつ実際的に提言されているようだが、素人の私が読んでも、極めて常識的な内容も含まれているように思える。これは、今まで東電側で、常識的な対応さえ充分になされていなかったことを裏付けているのだろうか。

 遅まきながらも、福島第一原発にブラッドシフトすべき体制が始動するのか、という予感だが、今はまだあくまで予感で、実際に始動したかどうかは、まだ伝わってこない。私たちは、これからしっかりとこの体制をモニタリングしていかなければならないだろう。

 注目すべきは、この提言を「原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします」というところから始めている点である。建言の公表に同席した松浦祥次郎・元原子力安全委員長は「原子力工学を最初に専攻した世代として、利益が大きいと思って、原子力利用を推進してきた。(今回のような事故について)考えを突き詰め、問題解決の方法を考えなかった。謝って謝れる問題ではないと思うが、失敗した人間として社会に対して問題を解決する方法を考えたかった」と陳謝したという。

 わが国の原子力平和利用を、その黎明期において推進してきた、いわば「原子力OB」たちが、その「まずさ」を認め、陳謝したのである。この期に及んで、東電は「想定外」だとか「天災」だとかの言い逃れはできないはずだ。東電の挙動が注目されるところである。